HARINOKI

【帆布に描く、想いをのせる】
HARINOKI 平岡典子さん

帆布生地に描かれたリアルでかわいらしいキリンやヒョウ、犬、猫……。
どれもユーモアがあり、11つ丁寧に手づくりされている。制作しているのは松山市に住むクリエイター「HARINOKI」の平岡典子さん。



○大好きな家族とともにつくる
平岡さんの工房は自宅のリビングの一角。カウンター越しに台所があり、振り返るとテレビがあり、生活空間の一部に作業スペースがある。作業台はミシンやたくさんのペン、筆などが並べられており、いろんなところに絵の具の跡がついている。まさに作家の机という感じだが、何気ないメモや小物入れ、置物がどれもおしゃれで、平岡さんのセンスが光っていた。



普通なら家とは別に作業場があったほうが集中できそうだが、平岡さんによると、家の中で作業することに意味があるそう。
「私はものをつくるのが仕事だけど、家族のためにやっているという点ではほかの主婦と変わらない。ただ好きなことをして楽しんでいる姿を子ども達に見てほしいし、子ども達にも好きなことを見つけて打ち込んでもらいたいです」(平岡さん)。
作業をするのは子ども達が2階の寝室に上がった後の午後9時から深夜12時、1時ごろまで。そばのテーブルでは旦那さんがしゃもじやスプーンなど木製のカトラリーをつくっている。平岡さんの作業台や道具を収納する棚も旦那さんの手づくりだ。一言も話すことなくお互い黙々と作業をするのだとか。

一時は好きなことを仕事にしていることに喜びを感じる一方、家のことと仕事の両立がうまくいかずジレンマを抱えていた。今では家事を夫婦で分担している。例えば夜遅くまで作業している平岡さんに代わって、朝ご飯をつくるのは旦那さんの役目。旦那さんもものづくりが好きだったからこそ協力し合えるし、お互いの創作意欲につながっている。そういった夫婦の形も素敵だなと感じた。

平岡さんのお母さんも手芸が得意で、小さいころからものづくりが当たり前の生活を送ってきた。必要なものはできるだけ自分達でつくる、そうすることで愛着もわき、大事に使おうと思えるのだという。

その想いは子ども達にも伝わっており、昨年のクリスマスプレゼントにはなんと絵日記を書くために手帳をお願いされたのだそう。手帳に絵日記を書くのは平岡さんが4年ほど前に育児日記に続いて始めた。もちろんご自身の画力を落とさないためでもあるが、ブログに日記を書くのとはまた違う、デジタルの文字や写真では表せないその日の心情や感覚が表せるのも絵日記の特長。どんなに忙しくても疲れていても、手帳に絵日記を書いてSNSにアップすることだけは毎日欠かさない。


平岡さんのこれまでの手帳を見せていただいたが、思わずくすっと笑えるものから元気が出るものまで、平岡さんの人柄がよく表れており、この絵日記をみて作品を買いに来てくれるお客さんがいるのもよくわかる気がした。家のこともこなしつつ、好きなことを仕事にする、お子さんがほぼ日手帳を始めたのも、平岡さんのそんな姿を見ていたからなのだろう。


屋号である「HARINOKI」はご家族の名前から1文字ずつとり、組み合わせた言葉なのだとか。平岡さんの家族へ対する愛情がたっぷり込められている。


○『好き』を形にするしごとです
平岡さんが今の仕事を始めるきっかけとなったのは、4年前の尾道帆布との出会い。もともと絵を描くことが好きだった平岡さん。ちょうどその時トールペイントの絵の具をもらったこともあり、帆布生地に絵を描く独自のスタイルが完成した。そのときは趣味で作品をつくっていたが、今ではイベント出店を中心に販売しており、3月には個展も開かれる。
「ネット販売ではなく、対面で販売することに意味がある。ネットでは『想い』が伝わらないし、自分らしくないと思うんです」(平岡さん)。

この『想い』とは何なのか、「子どもたちにも伝えているように、私の創作活動が自分の好きなことに素直に向き合うこと、好きなことにチャレンジするきっかけになればいいと思っています。みんなが好きなことをできれば生活が楽しくなるし、世の中も明るく回っていくと思うんです」(平岡さん)。

対面で販売することは、自分のイメージとお客様のイメージが重なる瞬間に出会えたり、作品を見てお客様の表情が変わる様子が直に伝わってくるのが楽しいと語る。お客様と世界に1つのものを一緒に創る、お客様の好きを形にすることがたまらなく楽しいのだそう。また、出店するイベントも回を重ねるごとに、お客さんだけでなくたくさんの作り手との出会いやつながりができたことが楽しく続けられる源になっている。

「人生の中では何気ない出会いや言動が後で全部つながってくる。私が今こうして作品を通してたくさんの人とつながれるのも、もともと絵を描くことが好きだったから、偶然帆布と出会ったから、偶然トールペイントをもらったから。改めて考えると、もしかしたら全部必然の出来事としてつながっていたのかもしれない。だから頑張ろうって思うし、ご縁を大切にしないといけないなと思います」(平岡さん)。

好きなことにチャレンジすること、出会いやつながりを大切にすること、平岡さんの想いや家族に対する愛情は作品の中にギュッと込められている。


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(取材担当:幸田みのり)

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