福岡自然農園

【自然農法の原点を伝える場 無想庵にて】
福岡自然農園 福岡大樹さん

愛媛県伊予市の大平に、海外からも訪れる人が絶えない農園があります。その名も「福岡自然農園」。農薬や化学肥料を使用しない自然農法の提唱者であり、『わら一本の革命』の著者である故・福岡正信さんの農園です。福岡さんの遺品や直筆の書などの作品を展示している資料館でもあり、福岡自然農園の直売所でもある、「無想庵」に伺いました。正信さんの孫にあたる、福岡大樹さんが出迎えてくれました。



その建物は、国道56号線沿いに位置します。伺ったのはちょうど、稲刈りを終えたシーズンで、束ねた稲藁が組んだ木に架けられており、稲木干しを髣髴とさせる光景が目印です。
その奥に見える瓦屋根の建物が無想庵。フランス人の大工が建てたそうです。中に入ると、天井の高い空間が広がり、無垢の木がふんだんに使われており、木の香りが漂っていました。そこここに、福岡さんの書籍や書、写真などが飾られています。福岡正信さんの著書は29カ国以上の国で翻訳され、世界中で愛読されています。「50年前に書かれた本ですが、今でも古くないと思えるのは、的を射ているというか、真実だからなのでしょう。正信の哲学を立証する手段の一つが農業だったのです」(大樹さん)。



■自然農法は誇れる農法だった

正信さんの福岡自然農園を、25歳の時に継いだ大樹さん。なぜ農業の道を歩もうと思ったのでしょうか。大樹さんは、次のように振り返ります。
「長男なので継ぐことに抵抗はなかったのですが、思春期の頃、皆さんと同じように将来のことを思い悩んだことがありました。そんな時に、化学的なものを排除して、植物自身が育ってもらうという自然農法は、誇りを持つことができる内容だと思いました。そして、それを超えるほどの他にやりたいこともなかった。30代には戻って来いと自由にさせてもらったのですが、その間にさまざまな仕事をして、もう十分見たかなと思い、30歳を待たずして帰って手伝うことにしました」

そんなお話の途中に、研修生の宮崎歩穂さんが、切りたての瑞々しいキウイと、レモンのスライスを浮かべた紅茶を運んでくださいました。このレモンやキウイは福岡さんのところで育ったもの。栽培している柑橘は早生や晩生なども入れると約30種ほどになるそうです。主力の柑橘の他、米や麦、野菜も栽培しています。



お米は、3品種を栽培。11月のお城下マルシェでは、新米を出品していただきました。「あきたこまちは白米の方が美味しいと思いますが、ヒノヒカリは白米でも玄米でも美味しいです。もう一個つくっている品種があるんですけど、それは、この福岡正信の品種としてつくったのがありまして、「ハッピーヒル」というんやけど、福岡の直訳なんです。このハッピーヒルが一昨年くらい、九州で玄米の食味大会があり、その時、これが優勝したらしくて、玄米では特に定評があるようです」(大樹さん)。



米づくりにおいて、自然農法と慣行栽培との違いを伺うと、「栽培方法として、これじゃないと自然農法というカテゴリーはないです。うちでいうと、ぱっと見た目は、そこら辺の農家とまったく同じような形なんやけど、除草剤をまかないので、草引きを手でしています。さらに稲木干しといって、天日で乾燥させるというのが一番の特徴でしょうか。手間が大分かかるんやけど、乾燥機がなくても干しておけば、10日ほどで乾きます」と教えていただきました。刈り取った稲を人が運んで、木に掛けるので、時間も労力もかかる作業です。「コンバインを使えば一人で1時間で終わる作業を、我々は4人で1日かかる。でも、今はこのスタイルでできているし、やっぱり、太陽に干したのと、普通の乾燥機では、味が全然違って、天日干しが美味しいなあと思えるんでね。まあ、それなら、できる間はこれでやろうかなという感じですかね」(大樹さん)。




■自然の中で、植物自身が育つとは 

2017年収穫の出来は美味しいお米になったそうです。しかし、台風で全滅した田もあり、お話から自然の厳しさ、農業の難しさを感じました。

「他の産業は、ある程度、システムをつくることができるけど、農業に関しては、どんなにシステムを構築したところで、それ以外の要素が多分に発生するので、臨機応変さが必要になってくるんです。まあ、そこが農家の腕の出しどころでもあったりするわけだけど。
工場でレタスをつくるとかありますが、それならば、システムが確立されるのでしょうけど、それをつくるための施設やら電気やら薬品やら何やらを踏まえて、それが本当に成り立つのでしょうか。逆に、そこの庭にレタスの種をぱらっと撒いておいても、できるときはできるのですが、片やそれだけのエネルギーを消費してつくる農産物があって。やっぱり、どっちかというと、将来にツケを残すような形でそういうものはあるんじゃないかなと思う」と、大きなエネルギーを費やして生産する農業に疑問を投げかける大樹さんですが、こうも続けます。
 
「まあ、かといって、工場のものを全部否定するつもりでもないんですよ。こういう仕事をしていたら、特に思うのが多様性が大事やなあと思うんで。うちらみたいな農家が全滅する時にサポートすることもできるやろうし、石油がなくなったら、うちらみたいなところがサポートしないといかんやろうし。いろんな農法があるというのは、ええことやと思う。けど、やっぱり植物自身に育ってもらうという、この自然農法は圧倒的に少数派ではあるんやけど、ウェイトとしてはもっと上がってもいいんじゃないかなあと思っています」(大樹さん)。

 『わら一本の革命』を読んで、自然農法は無駄なことを削ぐ印象を受け、そのことについて聞いてみたところ、「この本を読んで農業を始めて失敗する人って、削っていくというところに着目して、植えて腕組んで待って、できんかった! というような話はよくあるんです」と笑う大樹さん。

「これまで人工的に手を加えていた部分を時間をかけてどんどん自然に戻してやって、そういうワイルドさが身についたところで、手をかけずに毎年安定して作物がとれるようになるという結果がある。どちらかというと、そこに辿り着くまでのプロセスが大事なのです」と本質はそこにありました。言うは易しですが、大樹さんでも、人に伝えることは難しく、自分はまだまだ半人前で、その辺の感覚を磨き上げなければならないと思っているそうです。




■自然農法の価値を伝えるために

なるべく環境に負荷をかけない自然農法ですが、一般の販路では苦戦を強いられます。「食べものをつくるので、食べてはいけるんやけど、それをお金に換えることが課題です。特に自然農法の場合は、市場に出したところで、同じように並べると規格外品的にとられるので。みかん箱10kgで、悪いときは30円や50円という値になるので、とてもじゃないけど、ガソリン代にもならないような、結局成り立たない形になる。そうなると、それを理解してくれる人に届ける、そして適正な値段で買ってもらうということが必要になるのですが、日々、農作業をしながら、生産から販売、経理などを1から10までとなると大変です」(大樹さん)。

さらに、厳しい現実も語っていただきました。「子どもを学校に行かせるだけの収入を確保するのはとても難しい。上手に発信できる農家は生き残るのかもしれないけれど、地道に作業を追及するような職人的な農家では、まず難しい。その人たちの方がしっかりしたものをつくっているのかもしれないけれど、結果的には残ることができない。それが農業の現状でしょうか。うちは、祖父の書籍のおかげで、農園の認知度がある程度あり、当時、公害問題を契機に環境問題に意識が向いた時代であったため、そのあたりで、共同体が発生し、そことのつながりで40年来のお客さんで今に至っています。しかし、高齢化を迎えるので、これからの課題として、新しい販路の開拓があります」



そうした悩みもある中で、受け継ぐ重みもあるのではないかと伺ってみましたが、一つひとつ言葉を選びながら、笑顔で語ってくださいました。「性格なんかまあ、百姓なんで、いざとなったら食うていくだけのものをつくればという気持ちでおれば、なんとかなるかなあ、というのが一つあるんで。まあ、なるようになるか的な。それなりに努力はしてるつもりであるんやけど。食べ物をつくれるっていうのは、圧倒的に食べていける」(大樹さん)。
その言葉から、食べるものを生み出す、食を支える人の揺るぎのない強さを感じました。



自然農法に関心のある人はもちろん、知らない人も、愛媛が誇る偉人の言葉や考えに触れに、無想庵を、訪ねてみてください。もちろん、福岡自然農園のお米や柑橘、野菜、加工品、著書にちなんだ「わら1本」のオリーブオイルなども購入できますので、ぜひ、味わってみてください。





福岡自然農園 福岡正信資料館・直売店 無想庵
住所:愛媛県伊予市大平2-7
OPEN:土曜のみ10001700

福岡自然農園Facebookページ
https://www.facebook.com/福岡自然農園-1845878729017039/

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