交流を育むデザイン EAT MEET SHARE TABLE PROJECT(食べて、出会って、分かちあうテーブル)


お城下マルシェがまちなかで誕生し、花園町に移転してから20199月で2周年。農家さんや飲食店の方、魚屋さん、クリエイターの方に支えられ、第3日曜日の花園町通りの朝の顔として定着を見せています。
このお城下マルシェ花園に、新たなテーブルが誕生しました。このテーブルに携わった様々な人たちの想いが詰まった物語をお伝えします。


◼︎食べるところが欲しい!

農家さんや料理人の特製カレーやソーセージ、ドリンクなど、美味しい食べ物が並ぶお城下マルシェですが、「休憩スペースをもっと増やして欲しい!」という悩みが、ずっと課題でした。昨年にテーブルと椅子のセットを20セット導入したのですが、それでも混み合っている時は座れないことも。左手にフード、右手にドリンクを持つと手がいっぱい。さあ、どうやって食べようか、食べる場所を見つけるために彷徨うことに。




そんな時、スタンディングテーブルなら、座れなくてもドリンクをちょっと置くだけで、手が空くし、それほどスペースも取ることなく設置できます。ならば、スタンディングテーブルをつくろうと、プロジェクトを始めることになりました。


◼︎ただ、物を置く台ではない

スタンディングテーブルをつくるにあたり、お城下マルシェではどんな風に使われるだろうか。こんなシーンを想像しました。
  •  ある時は、家族や友達同士で囲み、語りあうテーブル。
  •  また、ある時は、テーブル越しに、お客さんと近くの出店者の会話が弾む。
  •  はじめましての方が、たまたまテーブルを囲み、会話が生まれる。



お城下マルシェのコンセプトは「EAT MEET SHARE」(食べて、出会って、分かちあう)。1台のスタンディングテーブルがあれば、そこは、コンセプトで謳っている、さまざまな人たちと美味しさを分かちあう場になります。そこで、「EAT MEET SHARE TABLE PROJECT」と名付け、バトンをつなぐことになりました。


◼︎第一のバトンは「graft

お城下マルシェを立ち上げる前に、DIYワークショップを開催し、みんなで出店用のテーブルをつくったことがあります。子どもから大人まで参加いただき、とても思い出に残っているのですが、残念ながら素人設計。使い続けると課題も見えてきて、今は別の机を使うことになってしまいました。

やっぱり、プロの力が必要ということで、県内でグラフィックデザインや設計の仕事をしている「graft」に相談してみました。お城下マルシェに出店いただいた、手刻みで木組みの家づくりをしている「みずき工房」や「トトトパン」の仕事も手がけています。

木造建築士でもあるgraftの酒井大輔さんは、大工や左官などの職人の仕事に惚れ込み、伝統構法の家づくりや古民家の改修にも携わっています。家具制作の経験もある酒井さんにこの話を持ちかけたところ、内子町の渡邉真弓さんと青山優歩さんに声をかけ、新たなチームを結成。渡邉さんは、「天神産紙工場」で大州和紙の職人として働く傍ら、休日に大州和紙の店「neki−和紙とあそぶ、和紙と暮らす」を営んでいます。青山さんは、図書室「ゆるやか文庫」を主宰し、和紙の魅力を伝えるワークショップなどの活動もしています。お城下マルシェでは本をテーマにした時に出店いただいたお二人ですが、彼女たちの想いは、伝統工芸である大州和紙を未来につなげること。和紙の新たな可能性を見出すために、建築やインテリアの世界にも足を踏み入れようとしていたところでした。
Photo by 水本誠時



そんなチームgraftにお願いしたスタンディングテーブルの条件は、次の通り。
  •  4人くらいが囲める大きさ
  •  スタンディングに丁度良い高さ
  •  1台で使うことも、つなげてロングテーブルとすることもできて、自由自在に使える
  •  バラして収納が可能(かつ組み立ても容易)であり、収納スペースを取らない


この条件を基に、夜な夜なチーム内で打ち合わせを重ね、ボール紙を切って模型をつくって試行錯誤。そうして設計した試作が完成し、719日のプレゼンの日を迎えました。


◼︎お城下さんのエプロン?!


プレゼンの中で、お城下マルシェで大切にしている、「出会い、つながり、輪を広げる」、このキーワードから、考えてみたという青山さん。そのために囲みやすい天板はどんな形だろうかということで、まずは、定番の正方形を考えましたが、ちょっと硬い印象。お城下マルシェのロゴのような柔らかな感じが欲しいと感じたそうです。そうしてロゴをじっと眺めていると、何だかエプロンをした人のように見えてきたとか。この人を「お城下さん」と名付け、このお城下さんのエプロンにあたる形、つまり台形にたどり着きました。
 
graftプレゼン資料より
台形のメリットとして、隣同士の人の距離が少し近くなることや、2台あると組み合わせ次第で、蝶々のような形になったり、平行四辺形や6角形になったりと、置き方で印象を変えられるということがあります。これに気づいたのは、渡邉さん。同じ台形に切ったボール紙を並べた時に、その面白さに出会いました。ちなみに、8台揃うと円形にすることができます。
graftプレゼン資料より

説明が終わり、試作の登場です。脚を組みあわせ、その上に天板を乗せるのですが、女性でも容易に組み立てられる条件はクリア。完成版を見て、実行委員からも改良点の意見出しがあり、天板に穴を開けて、穴に脚を嵌めて天板を固定するようにしていましたが、そこも改良されることになりました。




そして、翌日720日のお城下マルシェで、この試作したテーブルを使ってみることに。「みずき工房 & bookcafe okappa」ブースに設置してみたところ、大工さんにも好評でした。
そして、そこには、みずき工房のミニ建前を手伝うために来ていた大工の藤井康翔さんがいました。第二のバトンが、チームgraftから藤井さんに渡ります。




◼︎第二のバトンは大工の藤井さん

まだまだ暑さが厳しい8月の終わりに、藤井さんの作業場にお邪魔しました。なんとそこには、あのテーブルのミニチュア版が。チームgraftの設計図を藤井さんが形にしていたのです。


さらに、藤井さんによる改良も加わっていました。当初の設計では、脚が天板に対して直角に降りていましたが、それだとぐらつきやすいため、斜めに角度を付け、強度とバランスを向上させていました。


7月のマルシェの時、このテーブルがかなり気になっていたという藤井さん。「なんか面白いのつくっているな、楽しそう」と、チームgraftからの制作の依頼を快く引き受けてくださったそうです。

藤井さんは、大工の道に入って12年。最初は在来工法の住宅に携わっていましたが、みずき工房のグループと出会ってからは、手刻みで木を刻んで組む建物をつくる仕事にも多く関わっています。家具の制作も依頼があれば応じているそうです。「キャンプが好きなので、テーブルを考えることがあるんですよ」と藤井さん。ミニチュア版はキャンプにも重宝しそうです。


この試作を見た渡邉さん。天板を台形にしたことで、台形の難しさがあったそうですが、形になって嬉しいと、仕上がりに笑みがこぼれていました。この経験が、今後の和紙と木を組み合わせたものづくりに活きていきそうです。形は決まり、あとは、実際のスケールでの制作を行い、完成を待つのみとなりました。


◼︎第三のバトンは……

915日のお城下マルシェ花園。いよいよEAT MEET SHAREテーブルのデビューの日を迎えました。天気は快晴。30℃を超え、冷たい飲みものが欠かせない暑さです。
完成版のテーブルはこちらです。


脚が交差する箇所をビスで止めて天板を固定させるようになりました。天板は杉板、脚は、お城下マルシェに出店いただいている3nomaの「たま工房」から仕入れたナラ材。このナラは、閉鎖となってしまった面河少年自然の家に生えていたものなのだそうです。

早速、2台を合わせて六角形に。なかなかいい感じです。


実験として、1台は大三島ブリュワリーの前に、もう1台はこりおり珈琲&文庫の前に設置してみました。 
こりおり珈琲の前では、テーブルに珈琲を置いて、珈琲の時間を楽しんだり、写真を撮ったり。
大三島ブリュワリーの前では、青空の下で乾杯したり、ビールとおつまみが並び、たまたまそこにいた人たちで、ビール片手におつまみをつまみ合うような光景も見られました。



突然ですが、「セレンディピティ」という言葉を知っていますか? 
偶然の幸運との出会いを意味しますが、偶然ふらりと歩いていて、美味しい味や素敵な人と出会うマルシェもそんな出会いの場所だと思います。そうした出会いがあることは、自分の持つ世界が広がり、暮らしの豊かさにつながったり、新たなコトを生む可能性を秘めているのではないでしょうか。そのような場があればあるほど、まちは面白くなるのではないかとも思っています。このテーブルも、そんな偶然を生む仕掛けの一つになればと願います。

従って、次のバトンを受け取るのはあなたです。
このテーブルで食べたり、飲んだり、話したり。もっともっと使い倒してみてください。ここから、交流が育まれ、どんなストーリーが紡がれていくのか楽しみにするとともに、EAT MEET SHAREの輪が広がることを心より願っています。





文/新居田真美



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