新宮茶のつくり手を訪ねて/地域を支え、暮らしに寄り添う日々のお茶

インタビュー「新宮茶のつくり手を訪ねて。地域を支え、暮らしに寄り添う日々のお茶」
脇製茶場 脇 純樹さん
新茶のシーズンの様子。茶葉が瑞々しい。

毎月、お城下マルシェ花園に出店いただいている脇製茶場さんから、秋冬のお茶「熟成」が登場しました。秋の味覚たっぷりの食にあわせた香ばしいお茶で、9月のマルシェでも好評だったそうです。そんなお茶のつくり手である、脇製茶場の4代目、脇純樹さんにお話を伺いました。



■霜の被害で涙したことも

脇製茶場は、「霧の森」として知られている四国中央市新宮町にあります。この地は、お茶に適した気候と土質で、古くからお茶づくりが盛んだったそうです。1954年に、初代の脇久五郎氏が「ヤブキタ種」を新宮に導入して村内に普及させ、新宮茶の産地として育てあげました。
脇製茶場の敷地内では、先代の功績を讃える。

−−お茶づくりの1年はどのような流れなのでしょうか。

脇さん:「年が明けて、2月には春の肥料を、収穫前の準備という感じですね。4月の末から収穫が始まり、7月の半ばくらいまで、一番茶、二番茶をつくります。8月末から9月には秋の肥料をやります。涼しくなってくると、今度は根が活発に動き始めるので、その根に秋の肥料をやっておきます。蓄えるための肥料です。

10月になり、寒くなると木の成長が止まるので、綺麗なかまぼこ状に剪定します。かまぼこ状にすることで、お日様が綺麗に当たるのです。あとは、煎茶が終わった後くらいかな。敷き草と言うんですけど、茅とかを刈って畑に敷き込みます。この敷き草が分解したら、肥料を保つための良い土になります。

まあ、1年を通して草引きがありますが、夏場に集中しますね。で、同時に販売もしています。お茶の仕上げっていう、完成品を仕上げる工程もあるし、それは年中ですね」
茅も自分たちで刈る。


−−オフシーズンはあるのでしょうか?

脇さん:「ないですね。昔は、13月の寒い時期は収穫前で暇だったのですけど、今、その時期にワークショップなどに行かせてもらえるようになったので、ありがたいですね。だから、寒い時に文化的なことさせてもらって、暑い時期は売るものを一生懸命つくるっていう感じになっています」
花園町通りで開催したお茶のモーニングレッスン。


−−栽培の中で、一番大変と感じることは何でしょうか。

脇さん:「霜対策ですね。注意しても仕方ないですけどね。扇風機のようなプロペラが回っていますが、これが防霜ファン。霜除けです。

この地域では、気温が2度以下に下がることがあり、そんな朝に霜が降って、葉っぱについてしまったら、溶けた時に葉が傷むのです。傷んだものを摘んだら、お茶にした時に、とんでもない変な匂いがします。だから、霜が一番駄目なのです。ちょうどお茶が柔らかい時期と霜の時期がぴったりなので、もうヒヤヒヤします。

何年か前、一番茶の時に霜が降って、全然収穫できず、大損害となった年がありました。もう、涙を流しました。そういう年もあるので。霜は駄目ですね」



−−農業は、自然との戦いであり、共生ですね。そこと向き合いながら、日々つくっているのですね。

脇さん:「自然には敵わないですね。そして、毎年気候条件が違うから、お茶の味も毎年違って当たり前なんですけどね。お茶と言ったら、この味っていうイメージがあるから、なかなかです。年にもよりますよっていうことを、伝えていくことも大事ですね」



■ お茶から地域が見えてくる

脇さんがお茶づくりの中で、一番楽しいと感じることは、お茶の種類や歴史から見えてくる「地域」なのだそうです。静岡なら静岡の深蒸し、京都は宇治茶、鹿児島には鹿児島茶というように、お茶には地域性があります。

−−どのようなきっかけで、地域性を感じたのでしょうか?

脇さん:「鑑定の研修で、全国から関係者が静岡に集まった時、静岡の人は、自分の地域の深蒸しの商品はとても詳しいけれど、京都の宇治茶のようなあまり深蒸しをしない、四国っぽい感じのお茶の鑑定になると「?」となるんですよ。逆に、京都の人とか僕とかは、深蒸しにあまり触れていないから、深蒸しの鑑定になると「?」となる。

だからやっぱりお茶には地域性があって、その地域で消費されるものを出しているっていう。全国的に均一化しているって勝手に思っていたけど、意外とベースの部分というのは、ずっと残っているんだなと」


−−そうした地域性の違いはどこから来るのでしょうか?

脇さん:「水や食文化に合わせて、お茶も仕上がります。土地のない四国みたいなところは、深蒸しではなく香りが残るようなつくり方ですね。静岡だと蒸しを深くして、粉っぽいお茶なんですけど、京都の宇治などはすごく香りを残すために、しっかりと形が残るお茶を育てていたりして、地域性がすごく出ます。そうなると、逆に地域のことが見えてきます」


−−脇さんにとって、地域がどんなふうに見えてきたのでしょうか?

脇さん:「地元消費って、当初は、正直あまり意味なさそうと思っていました。同世代とかみんなペットボトルを買うし、僕もあまりお茶を飲まなかったし。でも、意外とお茶が売れていて、誰が飲んでいるのだろうなって思っていました。

お茶好きな人はもちろん飲むのですけど、地域の人が結構バリバリ飲んでいるのです。結局、地でつくって地で消費される。似たものをずっとつくっているというか。自分がそこに住んで、これがいいと思ってつくっているのですが、自然と地域の人の好みの方向に行くようになっていて、狙ってないけど、そういうのも面白いのではないかなと思えるようになりました」


−−意外ですが、ご自身は、もともとあまりお茶を飲まなかったのですか?

脇さん:「小さな子どもにとっては苦いですから(笑)
お茶も飲むけど、水も飲むし、ジュースも飲んでました。麦茶も普通にあるし。でも、お茶ばかり飲んでいたら、消費者の気持ちは、多分、分からなかったと思います。専門家は、消費者目線のことは分からないですよね」



■地域を想い、農業の道を

高知の大学に通っていた脇さん。社会経済学部で、学部が地域活性化のことを始めた頃だったそうです。学業半分、度々実家に帰り、家の手伝い半分の生活。卒業してからは、そのまま実家に就職。誰かに何か言われた訳ではないですが、代々続く土地を守らないと、という想いがあったそうです。

−−家業を継ぐことに決めたのはどうしてですか?

脇さん:「そうですね。僕は農業をしたいというより、地域活性化の方の関心ですかね。やっぱり、人がいなくなりまして。地元に残る人がいないのですよ。地元といっても工業のまちが近いので、そちらに働きに出る人が多かったので、なんかちょっと寂しいような気がするじゃないですか。できるならやろうかなっていうことで、うちで働いています。

この地域のことを考えたら、お茶がずっと経済を支えてきました。地域の特性とかもあるので、それ以外に何かしようと思ったらなかなか難しい。でも、お茶をベースに地域の活性化ができるかなって」



−−農家に若手の方はいるのですか?

脇さん:「いや、それがね。いないのですよ。農家さんって兼業農家なんで、息子とかがいて、茶摘みを手伝います、みたいなのはあるんですけど、兼業でやっているっていうお茶屋さんが、うちと大西さんで。そこが管理を手伝いながら、加工して販売するみたいな感じです。

高齢化も進んでいて、維持も難しいくらいです。おじいちゃんの時代に始めて、その頃バリバリやっていた人も世代が変わっているじゃないですか。子とか孫の世代になると、農業をやっていなかったりします。それこそ工業のまちが近いので、そこで働いて、帰って農業をするとは、なかなかならないのですね。そうなると、地元の会社に、畑の維持とか管理を任せることが多くなって、どんどん金銭的な負担が増えていきます」



脇さん:「なら、逆に、ある畑を使おうかとか観点を変えて、その手段の一つに紅茶とかウーロン茶とかかなって考えています。緑茶なら集中して、期間も短いから全部5月に摘み取ってつくらないといけないですけど、紅茶なら、その時期をずらしたりできるので、発想を変えて。こんな感じなら、ゆるくて違う感じで生産できて、お客さんにも様々なお茶に触れてもらえることもできるかなと」
紅茶も販売。季節の味の違いを楽しめる。



−−発想を転換することで、お茶づくりの負担を分散し、お茶の文化をより深めていくことができそうですね。脇さんとしては、今、地域活性化をどのように感じていますか?

脇さん:「なかなか難しいですね。今、地域活性って、地域に人を呼ぶっていうことで進んでいると思うのですけど、地元に住んでいる人間からしたら、人口を増やしたいというのがベースにあると思うのです。霧の森には、観光シーズンには来てくれるけど、そこから定住につなげていくことが難しい。呼ぶと住むは全然違うものなので」


−−定住は難しくても、関係人口をつくるようなことは考えていないのでしょうか?

脇さん:「僕も最近まではね、あまりアイデアがなかったけど、出店などで外に行くといろいろ言ってもらえるし、話もして、こんなのが足りないというのが分かってきました。

昔は、お茶摘みの体験がなかったので、始めようとした時、最初、霧の森の人を誘ったのですが、体験の中で、こんなのもいいなみたいなことが生まれ、いろいろできることが増えてきそうと思いました。時間を重ねながら、できるようになるといいですよね」

お茶づくり体験の様子。揉むことによってお茶になっていく変化が楽しめる。


−−打ち合わせでも、出店のブースでも、脇さんとお話すると、いろんなお茶が出てきます。その違いを味わうとともに、飲みながら脇さんとお話する時間がとても楽しいので、これを読んでいる皆さんにも、ぜひ、脇さんとのお茶時間を体験してほしいと思っています。

脇さん:「そういうのがあって、初めて、お茶や地域のことも思ってもらえるのかなって。だから、まずは、この地域でしっかりやらせてもらいたいと思います。一生懸命つくって、美味しいお茶を持っていくので、ぜひ、試飲でもなんでも飲んでみてください。取り敢えず、飲んでみてください!」



脇製茶場では、新宮茶や新宮の地域の魅力を伝えるイベントを今後開催予定です。
ぜひ、Facebookページやホームページをチェックしてみてください。

ホームページ http://www.waki-tea.co.jp

霧の森ホームページ https://www.kirinomori.co.jp



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