ごごにゃんファーム

【豪雨に負けず、離島から新たな挑戦を】
ごごにゃんファーム 石川雄介さん、真里さん


瀬戸内海に浮かぶ、忽那諸島の一つ、興居島。フェリーで約10分、松山から最も近い島であり、海水浴場や美しい自然、島の文化や歴史に触れられる。訪れたのは、1月末。のどかな島の風景とは裏腹に、この時期の柑橘農家は忙しい。港で出迎えていただいた奥様の真里さんと一緒に、まずは郵便局に直行して、発送作業。

発送を終えたら、作業小屋に。そこで、ご主人の雄介さんとアルバイトスタッフが、共選所に出荷するための選果作業を行っていた。「こっちがジュース」「こっちが格外」など、雄介さんがテキパキと指示を出し、さながら現場監督のよう。その横で真里さんが、注文の箱詰めを行ったり、由良港の直売所へ補充に向かったり。1200キャリーほど収穫するというが、それを担当する他のスタッフは現場で汗を流す。




■学生時代の縁が、みかん農家の道に
愛知県出身の雄介さん。柑橘農家となったきっかけを振り返る。「学生時代、興居島の伊予柑農家さんがみかんバイトを募集していて、たまたま見つけて応募したのです。それが一番の始まりですね。空き家に学生何人かで泊まり込み、すごく面白かったので、社会人になってからも、長期の休みがあったら時々行っていました」

卒業後は、ゼネコンで工事現場監督として経験を積んだ雄介さんだが、その後、青年海外協力隊としてナミビア共和国に赴任することに。その出発前に、農家のもとを訪れた時、将来継手が決まっていなかったこともあり、また自身も農家としてチャレンジしたい思いがあり、「協力隊から戻ったら、是非、僕にやらせてください」と手を挙げた。その時に、雄介さんのみかん農家の道が決まった。

帰国した後、県の果樹研究センターで1年間、研修生として学び、2017年に本格的に園を借りて、白ネコとみかんがシンボルマークの「ごごにゃんファーム」が誕生した。みかんや伊予柑が主な品種で、紅まどんな、はるみや甘平も少々。そしてジュースも販売している。



■2年目に見舞われた豪雨災害
就農1年目は天候に恵まれ、美味しい柑橘ができた。ところが、2年目となる2018年7月に、西日本豪雨が発生。あまり報道はされていないが興居島の被害も大きく、雄介さんも借りていた園の一部が土砂崩れで流されてしまった。復旧の見積もりは、総額で3000万円はかかるらしく、手がつけられない状態にある。

豪雨を乗り越えたみかんの樹も、猛暑で雨が少なくダメージを受けた。「味は良いのですけど、見た目が悪く、なかなか売るのに苦労していて。傷が多いので、選果機を通すだけでは済まず、1個1個、人の目で選り分けてやっていて選別が大変です」と雄介さんは苦労を語る。価格としても、傷があったり小さいと贈答用にはできず、去年よりも美味しいのに単価が安くなるというジレンマを抱える。

このような悲劇に見舞われても、「こんなこともあるんか! と、逆にそれを楽しめれば、楽しい感じではあるんです。まだ、壊滅的ではないので」と、笑顔を交えて語る雄介さんに悲壮感はない。
「これも協力隊の経験が大きいと思います。なんか、ダメになってもなんとかなるやって。建設会社に勤めて鍛えられた経験もあるので、何をやっても食べていけるという感覚があるんです」そんな自信があるからこそ、石川さん夫妻の柑橘農家としての挑戦はまだ続く。


■開拓という挑戦
以前から、新しくチャレンジができる良い場所があれば借りたいと、周囲に話していた雄介さん。隣がやめるからやらないかなど、徐々に話が舞い込むようになってきた。
「今借りている園地は、全部伊予柑なんですよ。作業が集中するので分散させるためにも、紅まどんななどをやりたいのですけど、今は、借りている土地なので、もともとある伊予柑を伐って他を植えてということがなかなかできない。新しい所で、いろいろ植えて実験もしていきたいです。理想的には、お金を稼ぐ園地と新品種を植えていく園地と苗木を植えるための園地とローテーションで回していきたいなと思っています」

そんな雄介さんが次に考えていることは、新たに使えることが決まった廃園の再生。今は木が草に飲み込まれ、道が分からなくなっている状況だ。耕作放棄地を再生させるためには、チェーンソーで木を伐り、重機で掘ったり均す必要があるので、重機の免許を取りに行こうと考えているそうだ。

島の柑橘栽培の風景を再生し、次につなぐ取り組みを始めようとしているのは、柑橘農業に可能性を感じているからでもある。「果樹は将来性があるというか、特にみかんはつくれる地域が限られているので。元々樹があるので収入がゼロになることはなく、価格が大暴落するということもないし、いいなと思います」と語る雄介さん。


最後に園地を案内していただいた。愛情を込めて、アフリカの国名でそれぞれの園地を呼んでいる。車を降りた所は、二人にとって思い入れのある「ナミビア」と名付けられている園地。瀬戸内海をタンカーが行き交う風景も見える、絶好のロケーション。日当たりも良く、太陽の光が十分に届く。


こんな穏やかな風景の島だが、そこで暮らすことの魅力とは何だろうか。「自由に何でもできることでしょうか。何でも自分でやらないといけないというのはありますけど」(雄介さん)。開拓精神旺盛な雄介さんと、ゆくゆくはゲストハウスとカフェを開き、興居島の魅力を伝えたいという夢を描いている真里さん。どんなピンチも楽しさに変えて乗り越える、そんな二人が届ける柑橘は、傷があっても瑞々しい美味しさがぎゅっと詰まっていた。





ごごにゃんファーム
愛媛県松山市泊町1370−2

購入できるところ
自宅前と由良港直売所、オンラインショップ





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