ユウギボウシ愛媛

【佐田岬の自然、歴史とともに続く柑橘栽培】
ユウギボウシ愛媛 宮部元治さん

1月も終わりかけ、雪交じりの雨が降る中、向かったのは佐田岬半島の海沿い、伊方町名取地区。
出迎えてくれたのはユウギボウシ愛媛の宮部元治さん。佐田岬半島で生まれ育ち、新居浜で自転車店と伊方で柑橘栽培を両立していたが、3年前に息子さんが店を継いだことを機に今では趣味の釣りと柑橘栽培一筋だ。


○名取ならではの景色を守る
伊方町名取地区は先人たちがつくった石垣と、海沿いの急斜面に形成された段々畑が織りなす景観で知られている。
写真提供 宮部さん

佐田岬半島は平地が少なく、畑をつくったり、家を建てるために、昔から石垣が組まれてきた。この地域の石垣には、ここでとれる青石や石灰岩が使われており、青石の青緑のような色と石灰岩の白、そして柑橘のオレンジがとてもきれいなコントラストになっていた。石垣は古くからこの地で生きてきた先人たちの知恵の結晶。石垣も年数が経つにつれて崩れることもあるが、宮部さんは地元の方と協力して、石垣を守る活動をしている。
写真提供 宮部さん

宮部さんは「石垣や段々畑は昔の人が自然の力をうまく利用した結果の景色」と語る。日当たりをよくするためには段々畑にして、木々がお互いの陰にならないようにするのが効率的であり、石垣はコンクリートの塀と比べて水はけがよく、また光も反射してくれるので光合成も促進されるのだ。「みかんをつくらないのであれば石垣が崩れても自然に還るのを待てばいい。でもみかんをつくるには先人たちの知恵と労力が詰まったこの石垣をちゃんと管理しないといけないと思うんです」(宮部さん)


もう1つ、この地区の景観を構成する要素として欠かせないのが、防風垣だ。佐田岬は北西にさえぎる陸がないため、風の吹く日が多くある。そのため、この地域で柑橘を栽培するには風対策が欠かせないのである。園地に防風垣として植えられていた杉は、きれいに切りそろえられ、柑橘を強風や潮風から守っていた。

「垣の高さが高すぎると日が当たらない。柑橘の木の高さに垣の高さをそろえること、全く風が通らないのもよくないので、垣の下の方は空けておくことが大切なんです。柑橘を栽培するのと同じくらい、防風垣の手入れにも力を入れています。柑橘栽培に加えて防風垣の手入れもあるので、他の柑橘農家さんよりはすることがたくさんありますが、楽しいからやめられませんね」(宮部さん)
13aの園地を管理する宮部さん。柑橘栽培に加えて防風垣の手入れはとても大変だが、楽しいからできるという言葉に、農家としての強さ、たくましさを感じた。

○木や半島と相談しながら育てる
ユウギボウシ愛媛で販売している柑橘は約8種類。園地によっても標高や日当たり、温度差が違うので、見た目や味、成長具合が変わってくる。園地を案内していただいたくと、宮部さんのこだわりが至る所に見えた。
最初に見せていただいた不知火は、丁寧に袋掛けされた実が木の下側についていた。ユウギボウシ愛媛の柑橘は分割採取で収穫されている。分割採取とは、1つの木になっている柑橘を1度に取りきってしまうのではなく、日当たりの良い高いところや木の外側になっているものを先に取り、あとの実はしばらくおいてから収穫するというものである。こうすることによって、糖度アップや酸抜けにつながり、よりおいしい実になるのだそう。ただ、同じ園地を2回収穫することになるため、作業効率が悪くなるだけでなく、雪や雨の影響も受けやすくなる。それでもおいしさを追求する宮部さん。収穫の時は自分で味見をしながら収穫する実を判断しているそうだ。

ポケットから出てきたアーミーナイフで、収穫した不知火をその場で切って見せてくれた。つぶつぶの果肉がギュッと詰まっていて、甘みの中にもほんのり酸味が感じられた。「手のかけ方で実の付き方、味も変わる。柑橘が一番おいしい状態を知っているからこそ、手間はかかるけど、その状態で採って、それを食べてほしいです」(宮部さん)

宮部さんの柑橘栽培に対するこだわりはこれだけではない。除草剤を一切使わないため、地面はとてもふかふかで、除草剤を撒く園では見られないスミレなどの野草も生えていた。
「人は自然の力には勝てない。だからうまく共生していかないといけないんです。おいしい柑橘をつくるには、木や半島と相談しながらつくるのが大切なんです」(宮部さん)



○柑橘を一番おいしい状態で届ける
宮部さんの柑橘栽培は収穫が終わりではない。収穫した後の貯蔵にもこだわりがある。収穫した園地や品種、その年の気候によって、新聞紙を敷き詰めたり、毛布を掛けたり、貯蔵室の換気の頻度を変えたりと細やかな気配りがされているのだ。コンテナを置く時も衝撃で傷ができないようそっと動かすなど、細心の注意を払っている。柑橘に味がのるのは、収穫するまでも重要だが、収穫後の貯蔵こそが大きな鍵を握っているのだそう。


一体なぜここまでこだわってわざわざ手間のかかる作業ができるのだろうか。「目標は100人が食べて10人がおいしいと言ってくれること。その10人のうちの1人がリピーターになってくれることなんです。1番大切なのは楽しんですること。それを見てくれた人がうちのみかんに興味を持ってくれたらうれしいです」(宮部さん)。手間のかかる作業でも、お客さんにおいしいみかんを届けるために欠かせないことで、宮部さんは楽しみながら向き合っている。実際にユウギボウシ愛媛のファンは宮部さんのブログやSNSを見て、ここのみかんが食べたいと注文をしたり、時には名取の景色を見に来たりもする。

おいしいみかんを届けること、食べた人とつながり、佐田岬の自然を感じてもらうこと、これらが連鎖して宮部さんの「楽しい」を創り出している。

ユウギボウシ愛媛
愛媛県西宇和郡伊方町名取241
Tel:090-8284-2292
Mail:yugiboushi@yahoo.co.jp

購入できるところ
・ユウギボウシ愛媛販売サイト
・今井自転車商会
愛媛県新居浜市一宮町2-2-38

(取材担当:幸田みのり)

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